人と関わる中で「本当は嫌だけど言えない」「強く言いすぎて後悔する」そんな経験をしたことはありませんか。
そんな時に役立つのが アサーティブコミュニケーション です。これは、単なる「自己主張」ではなく、自分の気持ちを率直に伝えながらも、相手の立場も尊重する伝え方を意味します。
アサーティブと他のコミュニケーションの違い
人間関係には大きく3つのスタイルがあります。
- アグレッシブ(攻撃的)
「自分が正しい」「相手を負かしたい」という気持ちが強すぎるスタイル。相手を押しのけるように主張するので、摩擦が増えやすい。 - ノンアサーティブ(受け身)
「嫌われたくない」「波風を立てたくない」という思いから、言いたいことを飲み込むスタイル。結果的にストレスがたまりやすく、自分をすり減らしてしまう。 - アサーティブ(自己主張)
自分の気持ちを伝えつつ、相手の意見も尊重するスタイル。冷静で誠実、対等なやりとりを目指す。
この中間地点を選べるようになると、人間関係がぐっと楽になります。
アサーティブコミュニケーションの基本原則を深掘りする
アサーティブコミュニケーションは単なる「話し方のテクニック」ではなく、人間関係をより健やかにするための姿勢そのものです。
その土台となるのが「基本原則」。ここを理解しないまま実践すると、ただの“言い方の工夫”に留まってしまい、効果を実感しにくくなります。
では、具体的にどんな原則があるのかを整理してみましょう。
自分の気持ちを尊重する
アサーティブの第一歩は、「自分の気持ちを軽んじない」ことです。
多くの人は「相手を傷つけたくない」「嫌われたくない」と思うあまり、つい自分を後回しにしてしまいます。
しかし、自分の本心を無視したまま相手に合わせ続けると、次のような状態に陥りがちです。
- 我慢が積み重なり、ストレスや不満が爆発する
- 本音を隠しているため、信頼関係が深まりにくい
- 「自分なんてどうでもいい」という自己否定につながる
例えば、友人に「週末手伝って」と頼まれたとします。
疲れていて休みたいのに「いいよ」と答え続けてしまえば、心身ともに消耗してしまいます。
このとき、アサーティブであれば「疲れているから今回は難しい」と自分の気持ちを大切にしながら断ることができます。
自分の気持ちを尊重することは、わがままではなく“自己尊重”の第一歩なのです。
相手の意見も尊重する
「自分を大切にする」だけではアサーティブにはなりません。
同時に必要なのが 「相手の立場も理解しようとする姿勢」 です。
これは「同意する」という意味ではなく、相手にも考えや気持ちを持つ権利があると認めること。
例えば、会議で自分の案が却下されたとき。
- アグレッシブな反応:「なぜ私の意見を無視するんですか!」
- 受け身な反応:「…わかりました(納得していない)」
- アサーティブな反応:「今回は違う方向性を選ぶのですね。理解しました。私の案の一部が将来的に役立つ可能性があるので、そのときに検討していただけると嬉しいです」
このように、相手の意見を尊重することで、対立を避けながら自分の考えも残すことができます。
「自分も大切、相手も大切」――そのバランスこそがアサーティブの核です。
率直さ(正直に伝える)
アサーティブコミュニケーションは、遠回しすぎる表現ではなく、率直さを大切にします。
ただし、率直=ストレート=攻撃的ではありません。
例えば:
- ×「あなたの説明はわかりにくい」
- ○「説明が少し難しかったので、もう一度簡単に教えていただけますか?」
自分の感じたことを正直に伝えつつ、相手を傷つけない工夫をする。
この「率直さ」があるからこそ、アサーティブは誤解を生みにくいのです。
誠実さ(嘘をつかない)
アサーティブには誠実さが欠かせません。
「その場しのぎの返事」「断れないから仕方なく言う“嘘のYES”」は、一時的には相手を安心させますが、長期的には信頼を損ないます。
例えば、飲み会に行きたくないときに「その日は予定がある」と嘘をつけば、後で矛盾が生まれることも。
アサーティブであれば「今日は休みたいから参加できない」と誠実に伝えます。
誠実なコミュニケーションは、関係を細くても長く続ける秘訣になります。
対等さを意識する
アサーティブは「上から目線」でも「下手に出すぎ」でもありません。
相手と自分を対等な存在として扱うことが大前提です。
たとえば上司に意見を伝えるときでも:
- 受け身:「上司だから逆らえない」
- 攻撃的:「上司でも間違っている」
- アサーティブ:「役職に関係なく意見を持っている一人の人間同士として、建設的に話す」
上下関係に縛られすぎず、フラットな姿勢を意識すると、相手も聞く耳を持ちやすくなります。
感情をコントロールする
アサーティブは感情を抑え込むことではありませんが、感情に振り回されないことも大切です。
イライラしたときにそのまま言葉をぶつけてしまうと、相手は防御的になり、対話が難しくなります。
一呼吸おいて、「私はこう感じている」と冷静に表現すること。
たとえば:
- 怒りにまかせて「なんでこんなに遅いんだ!」と言うのではなく、
- 「遅れて心配したし、予定が変わって困った」と感情を整理して伝える。
この工夫だけで、関係の悪化を防ぐことができます。
具体的な会話例で学ぶアサーティブ
職場でのケース
上司から無理な仕事を頼まれたとき。
- NG例(受け身):
「…はい、やります(内心は不満)」 - アサーティブ例:
「今週はすでにA案件に集中しています。優先順位を一緒に確認していただけますか?」
相手を否定せず、自分の状況を伝え、解決方法を一緒に探す姿勢がポイントです。
友人関係でのケース
飲みに誘われたけど行きたくないとき。
- NG例(受け身):
「うーん…行けたら行くね(結局断れない)」 - アサーティブ例:
「今日は疲れているから行けないけど、別の日なら一緒に行きたいな」
断りつつも関係を大切にする言い方ができます。
家庭でのケース
パートナーに「休日も仕事ばかり」と不満を伝えたいとき。
- NG例(攻撃的):
「あなたはいつも家族を放ったらかし!」 - アサーティブ例:
「休日に一緒に過ごせないと寂しい気持ちになる。次の休みは一緒に出かけられる?」
攻撃ではなく「自分の感情(Iメッセージ)」で伝えることが大切です。
アサーティブで得られるメリット
- 人間関係がスムーズになる
- 誤解や不満が減り、ストレスが溜まりにくい
- 自分の意見を正直に伝えられるので自己肯定感が高まる
- 信頼される人間関係を築ける
一見「言いにくいことを言う」ように思えますが、結果的に自分も相手も楽になるのです。
アサーティブを身につける練習法
小さな場面から始める
いきなり大きな対立の場面で実践するのは難しいです。
まずは「コンビニで“温めてください”と頼む」「会議で一言意見を言う」など、日常の小さな自己主張から始めましょう。
感情ではなく事実を伝える
「遅刻ばかりで困る」より「今日は10分遅れて到着しましたね」と具体的に伝える。事実ベースで話すことで相手を責めずに済みます。
自分の感情をIメッセージで表す
「あなたのせいで…」ではなく「私はこう感じた」と主語を自分にするだけで、相手は受け止めやすくなります。
アサーティブを難しく感じる人へ
「そんなにうまく言えない」「断るのが怖い」と思う方も多いでしょう。
でも、アサーティブは完璧さを求めるものではなく、少しずつ“我慢せずに伝える習慣”を増やすことが大事です。
- 最初はぎこちしくても大丈夫
- 言えなかった時も「次に言ってみよう」と考えれば進歩
- 相手にどう思われるかより、自分を大切にすることを優先する
「小さな一歩の積み重ねが、大きな自信になる」――これはアサーティブにも当てはまります。
アサーティブはビジネスにも人生にも役立つ
- 職場:上司・同僚との信頼関係づくり
- 家庭:パートナーや子どもとの穏やかな対話
- 友人関係:気を使いすぎず心地よい距離感を保つ
攻撃でも受け身でもないバランス感覚を持てると、人間関係は不思議なほどスムーズに回り出します。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは、「自分を大切にしながら相手も尊重する」というシンプルだけれど奥深いスキルです。
- Iメッセージで率直に伝える
- 相手の立場も考えながら話す
- 小さな練習から始める
この習慣を持てば、人間関係のストレスが減り、仕事もプライベートも驚くほど楽になります。
「言えなかった後悔」よりも「言ってよかった安心感」を少しずつ積み重ねていきましょう。

