「成長しなきゃ」という強迫観念をゴミ箱へ。現状維持こそが、現代における最も困難で高貴な闘いだ

日々のあれこれ

「もっと成長したい」「自分をアップデートしなきゃ」

書店に行けばそんな言葉が並び、SNSを開けば同年代の「成功報告」が容赦なく目に飛び込んできます。あたかも昨日より今日、今日より明日、常に右肩上がりで成長し続けなければ、この社会に居場所はないと言わんばかりの同調圧力です。

ですが、あえて言いたいと思うのです。 「成長しなきゃ」なんていう強迫観念は、今すぐゴミ箱に捨ててしまって構わない。

この変化の激しい、生きているだけでエネルギーを削られる現代において、「昨日と同じように今日を過ごせた」ということは、決して停滞ではありません。それは、極めて困難で、気高く、賞賛されるべき「勝利」であるはずです。


「右肩上がり」という資本主義の呪い

私たちは、常に成長し続けることが正しいと教え込まれてきました。スキルを上げ、年収を上げ、人間関係を広げ、より高いステージへ。

しかし、冷静に考えてみてください。植物だって動物だって、成長期が過ぎれば「維持」のフェーズに入ります。一年中、休むことなく芽を出し続け、花を咲かせ続ける木なんて存在しません。そんなことをすれば、あっという間に枯れてしまいます。

それなのに、なぜ人間だけが死ぬまで右肩上がりのグラフを強要されなければならないのでしょうか。

「成長していない自分には価値がない」と思い込ませることは、誰かにとって都合が良いだけの論理です。もっと働かせたい、もっと消費させたい。そんな外部の思惑に、自分の貴重な命を同期させる必要なんて、どこにもないと思うのです。

「現状維持」は、全力疾走でやっと辿り着ける場所

「現状維持なんて退化と同じだ」なんて偉そうなことを言う人がいます。ですが、この荒波のような社会で、現状を維持することがどれほど過酷なことか、彼らは理解しているのでしょうか。

  • 毎日、決まった時間に起きる。
  • 体調を崩さずに一日を終える。
  • 自分の機嫌を自分で取りながら、最低限のタスクをこなす。

これらの一つひとつが、実は綱渡りのような絶妙なバランスの上に成り立っています。少しでも風が吹けば崩れてしまいそうな日常を、私たちは必死に、知恵と勇気を振り絞って支えている。つまり、「いつも通りの今日」を守り抜いたあなたは、既にその日一日を全力で戦い抜いた勝者なのです。

「何も変わっていない」のではなく、「変わらないために戦った」。その事実を、もっと誇ってもいいと考えます。

たった一つ、仕事の「矜持」にだけ全力を出す

ただし、あらゆる物事に対してシャッターを下ろすわけではありません。 世間が押し付ける「スキルアップ」や「キャリアパス」といったノイズをすべてゴミ箱に捨てた後、残ったわずかなエネルギーを、仕事における「たった一つ、自分だけのルール」にだけ注ぎ込んでみてください。

それは、履歴書に書けるような大層な実績ではなく、あなたの内側の「矜持(きょうじ)」に関わることです。

  • 「同僚に対してだけは、常に思いやりを持って接する」
  • 「どんなに些細なことでも、顧客に対して絶対に嘘をつかない」
  • 「受けた仕事の期限だけは、何があっても守る」

この、たった一つだけでいい。 会社が求める「多機能で優秀な人材」を目指して全方位にエネルギーを分散させるのをやめる。その代わりに、自分が定めた「これだけは守る」という一箇所にだけ、全ての誠実さを集約させるのです。

他の仕事がどれほど「現状維持」で適当なものであったとしても、その一点さえ守り抜いていれば、あなたは仕事において敗北していません。むしろ、全方位で器用に立ち回るエリートよりも、ずっと強固で信頼に足る「個」としてそこに存在できるのだと思うのです。

停滞という名の「凪」を楽しむ

もし、あなたの人生が今、停滞しているように感じられるなら、それは幸運な「凪(なぎ)」の時間だと思っていいでしょう。

無理に帆を張って、嵐の中に突っ込んでいく必要はありません。風が吹いていないのなら、ただ波に揺られていればいい。世間が「もっと速く」「もっと遠くへ」と急き立ててきても、「私はここで浮いているのが心地いいので、どうでもいいです」と聞き流す図太さ。それが、現代における最高の知性だと私は思います。

何もしないこと。変わらないこと。 それは決して「怠慢」ではなく、自分のリズムを他人に預けないという、強固な意志に基づいた「高貴な闘い」です。

最後に:今日を生き延びた自分を、最大級に評価する

もし今日、あなたが特別な成果を何も出せず、ただ一日を終えようとしているなら。もし、去年の今頃と同じ場所で、同じような悩みを抱えて立ち止まっているなら。

でも大丈夫。 この複雑怪奇な世界で、あなたは壊れずに、今日という日を「維持」することに成功したのです。それ以上に素晴らしい成果なんて、この世にそうそうありません。

世間が煽る「成長」を華麗にスルーし、自分が決めた一つの誠実さだけを抱えて、明日もまた同じように生きていく。

「……まあ、このままでどうにかなるか」 そう呟いて、深い眠りについてください。明日のあなたが、また今日と同じように、穏やかに「現状」を維持できることを願っています。