職場での人間関係に悩む人は少なくありません。上司に思ったことを言えずモヤモヤを抱えたり、逆に強く言いすぎて後悔したり…。多くの人が「言えない」か「言いすぎる」かの両極端に陥りやすいのです。
そこで注目したいのがアサーティブコミュニケーション。これは「自分も相手も大切にする自己表現」のこと。単なる自己主張でもなく、相手に合わせて譲るだけでもない。相手を尊重しながらも、自分の考えや感情を正直に伝える技術です。
この考え方を実践できると、職場での信頼関係は大きく変わります。では、どうすればアサーティブな伝え方を身につけられるのでしょうか。
アサーティブコミュニケーションの基本原則
アサーティブには、大きく4つの基本原則があります。ここを理解することが第一歩です。
正直であること
アサーティブでは「思っていることを素直に表現する」姿勢が欠かせません。とはいえ、何でもそのまま言えばいいというわけではありません。感情を爆発させるのではなく、「事実をもとに、ありのままの気持ちを伝える」のが大切です。例えば「残業が続いて疲れています。少しペースを調整したいです」と率直に言えれば、相手も状況を理解しやすくなります。
率直であること
日本人は遠回しな表現を好む傾向がありますが、アサーティブでは誤解を生まないシンプルな伝え方が重要です。「できれば」「ちょっと」という曖昧な言葉を減らし、YESはYES、NOはNOと伝える勇気を持つことが、信頼関係を築く第一歩となります。
対等であること
立場に関わらず、相手と自分を対等に扱うのがアサーティブの大前提です。上司に対して過度に萎縮する必要も、部下や後輩に対して上から目線になる必要もありません。「人としては対等、役割は違うだけ」という意識を持つと、余計なストレスが減り、落ち着いて会話できます。
自己責任を持つこと
自分がどう伝えるかは自分の責任であり、相手がどう受け取るかまでコントロールすることはできません。大切なのは「自分が伝えるべきことを、誠実に伝える」という姿勢です。相手がどう反応するかを気にしすぎると、結局言いたいことが言えなくなります。
この4つの原則を意識することで、アサーティブコミュニケーションは「ただの言い方のテクニック」ではなく、「相手と自分の双方を尊重する生き方」に変わっていきます。
職場でアサーティブコミュニケーションを活かす場面
では、実際にどんなシーンで役立つのでしょうか。代表的な例を挙げます。
上司への報告・相談
無理な納期を指示されたとき、ただ受け入れると自分もチームも疲弊します。しかし、感情的に反発すれば関係が悪化しかねません。
アサーティブな伝え方:
「現状のスケジュールでは難しいため、優先順位を一緒に調整していただけますか?」
部下や後輩への指導
叱りつけたり、逆に曖昧に流したりすると信頼を失います。
アサーティブな伝え方:
「報告がなかったことで全体の進行に影響が出てしまった。次からは必ず共有してほしい。改善のために私も協力するね」
同僚との意見の違い
意見が割れたとき、沈黙するのも押し通すのも非建設的です。
アサーティブな伝え方:
「私はこう考えています。その理由は〇〇です。ただ、あなたの意見にも一理あるので、一緒に落としどころを探しませんか?」
アサーティブに伝えるための具体的テクニック
理論だけでは身につきません。日常の中で使える具体的な工夫を紹介します。
Iメッセージを使う
「あなたはいつも遅い」ではなく、「私は待っていると不安になる」と伝える。これにより相手は責められている感覚が減り、受け入れやすくなります。
事実と感情を分ける
「遅刻ばかりしてダメだ」ではなく、「10分遅れてきたので会議がずれ込みました。その結果、私は焦りを感じました」と、事実+感情をセットで表現します。
ノーをやさしく伝える
断るときは代替案を添えるのが効果的。
「今は難しいですが、〇日なら対応できます」と伝えると、関係を壊さずに自己主張できます。
共感を挟む
いきなり反対するのではなく、まずは「あなたの意見にも納得できる点があります」と共感を示す。これだけで会話の空気は和らぎます。
沈黙を恐れない
相手が考える時間を奪わず、静かな間を受け入れることも大切です。焦って埋めようとすると、本当に伝えたいことが言えなくなります。
これらのテクニックは一度に全部はできません。まずは「Iメッセージ」だけ、「ノーをやさしく伝える」だけ、と一つずつ取り入れると、自然と会話の質が変わっていきます。
アサーティブが職場にもたらす効果
継続的に実践していくと、次のような効果が期待できます。
- 信頼関係が深まり、チームワークが強化される
- 不要な誤解や摩擦が減る
- 自分の意見を安心して出せる雰囲気が広がる
- 感情をため込まないため、ストレスが軽減される
- 「あの人に相談したい」と思われる存在になれる
特にリーダーやマネージャーにとっては、アサーティブが「人を動かす技術」として大きな武器になります。
まとめ|自分も相手も大切にする伝え方を
職場で成果を出す人は、コミュニケーションの質を軽視しません。アサーティブコミュニケーションは、単なる話し方のコツではなく、「信頼を築くための姿勢」です。
- 言いたいことを我慢しない
- 感情的にぶつけすぎない
- 相手を尊重しつつ、自分も大切にする
このバランスを意識すれば、仕事は驚くほどスムーズに進むようになります。
「言わなければ伝わらない。でも言い方ひとつで関係は変わる」
――このシンプルな真実を、ぜひ明日からの職場で試してみてください。

